
乳腺組織から発生するがんを乳がんと呼びます。種類として、乳管から発生したがんを乳管がん、小葉から発生したがんを小葉がんと呼び、乳がんの発生割合では乳管がんが多くみられます。
また、乳がんの中でも特殊なタイプである「乳房パジェット病」は乳がん全体の1%未満にあたります。乳腺組織は女性に多くありますが、男性にも存在するため、男性の場合でも乳がんは発生します。
乳がんの原因
女性ホルモンが深く関わり、以下のような場合に発症しやすいと言われています。
更年期障害に使用するホルモン療法は、薬の内容や投与期間によっては乳がんの発症率が高まると言われています。
更年期障害でホルモン療法を行う場合や治療中は、乳がん検診を行うことが必要です。
その他の原因
■ 喫煙、飲酒の過剰摂取 : 喫煙・飲酒の過剰摂取は発症率を非常に大きく高めてしまいます。
■ 肥満 : 女性ホルモンに深く関わるエストロゲンは、脂肪組織でも作られるため、肥満体型の場合は発症リスクが上がります。
■ ホルモン系の経口薬 : 経口避妊薬(ピル)やホルモン補充療法など、体外からのホルモン剤によって発症リスクが上がると言われていますが、はっきり分かっていません。
■ 身内の乳がん歴 : 身内で乳がん歴や良性の乳腺疾患を持っているなどがある場合、持っていない方と比較すると発症リスクがとても高いことが知られています。
■ 夜間勤務 : 女性ホルモンなどは規則正しい生活において正しく分泌され、身体機能などを健康に保ってくれていますが、夜間勤務を長期間続けることで、バランスが崩れてしまい発症リスクを高めてしまう可能性があります。
■ 食生活 : 食の欧米化によって、肉類などの動物性脂肪を多く摂ることが増えましたが、逆に野菜や果物類を摂る機会も同時に減ってしまっています。そのため、肥満や必要な栄養が摂れずに、体を壊してしまい、それにより発症リスクも上がってしまいます。
乳がんの症状
乳がんの代表的な症状 | しこり |
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代表的な症状はしこりです。腕をあげた際に乳房の形が異常であったり、左右の大きさが違う、皮膚が硬いなどがあります。乳がんは脇下のリンパ節に転移しやすく、脇下に違和感が出ることもあります。
乳頭から分泌される分泌液に、血液が混ざっている場合も注意が必要です。がん以外の病気も考えられるため、茶褐色のような分泌液が出た場合はすぐに病院を受診しましょう。男性の乳がんの場合は、乳房の異常発達がみられます。
非浸潤がんの症状
代表的なしこりが無いことがほとんどです。
しこりが無いため無自覚の場合も多く、その他の症状では乳頭からの茶褐色の分泌液や乳頭・乳輪のただれなどが見られます。
浸潤がんの症状
代表的な症状は、乳房とリンパ節のしこりです。乳がんのしこりは5mmから1cmぐらいの大きさになると、注意深く触診をすると分かる状態です。
その他では、乳房にえくぼができる・リンパ節の腫れなどがあり、遠隔転移している場合はその臓器の症状が現れます。肺転移の場合は咳、骨転移の場合は腰や背中が痛むなどの症状です。
乳房パジェット病の症状
乳頭部及び乳輪部に湿疹のような赤い炎症がおき、また皮膚が剥がれびらんという状態になります。その際、かゆみや痛みが生じます。
一般的な乳がんのようにしこりを形成しないため、普通の湿疹と思われ症状が悪化してしまうことも多いようです。
乳がんの検査・診断
下記内容の検査を行います。音波検査とマンモグラフィ、それぞれでしか確認できない乳がんもあるため、通常は両方の検査を行います。その上で必要な場合は、MRI、CT、生検を行い確定診断されます。
- 視触診
- マンモグラフィ
- 超音波検査
- 細胞診検査
- センチネルリンパ節生検
◼ 視触診
乳房の状態や変形、しこりの有無やリンパ節の状態を調べます。
◼ マンモグラフィ
乳房のX線検査で、上下・左右から乳房を挟んで圧力をかけ、組織が石灰化している部分やこぶ状に固まっている部分を確認します。
◼ 超音波検査
乳房に超音波をあてて画像をつくり、がんを確認する方法です。40歳以下の場合は乳腺の密度が濃く、マンモグラフィでは確認しづらいため、超音波検査が主になります。
その他の診断
◼ 細胞診検査
最終的な確定診断には病理検査が必要です。細い針を刺す細胞採取や、マンモグラフィや超音波検査で確認した際に、組織の一部を採取するマンモトーム生検などがあります。
以上の検査で確定診断が行えない場合(小さなものや画像では確認しづらいもの)はしこりを部分切除して診断することもあります。
◼ センチネルリンパ節生検
近年行われているのが、リンパ節生検です。センチネルリンパ節とは脇下のリンパ節でこのセンチネルリンパ節に転移がない場合はリンパ節転移はなく、リンパ節郭清を行わなくても良いとされています。
しかし、このセンチネルリンパ節生検は研究段階で保険適用外のため先進医療の取扱いとなり、厚生労働省に認められた施設のみでしか行なっていません。
乳がんの治療方法
乳がんの主な治療法 | 乳房温存手術 / 全乳房切除術 / リンパ節郭清 / 放射線療法 / 化学療法 / ホルモン療法 / 分子標的薬 |
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各治療法
◼ 外科療法
方法は、乳がんのステージによって異なります。
乳房を温存して部分切除する乳房温存手術と、乳房全てと周囲の組織を切除する全乳房切除術です。乳がん切除と同時に脇下のリンパ節切除する方法もあります。
● リンパ節郭清
基本的には乳がん切除と同時にリンパ節も切除します。乳がんはリンパ節への早期転移があるため、リンパ節への再発転移予防にもなります。
◼ 放射線療法
放射線でがん細胞を死滅させる方法です。乳がんの場合では、外科療法で切除後に再発予防目的で行うことが多いです。局所的に放射線を照射しますが、照射領域にある臓器には副作用が現れることもあります。
◼ 化学療法
がん細胞の細胞分裂に働きかけ、がん細胞を死滅させる効果があります。乳がんは化学療法が効果的というデータがありますが、がん細胞以外の正常細胞にも作用するため副作用が出やすいのがデメリットです。
◼ ホルモン療法
乳がんのがん細胞増殖には、女性ホルモンを必要とする細胞と必要としない細胞があります。切除した細胞から種類を見分け、女性ホルモンに影響されやすい場合はホルモン療法が有効です。また進行した再発乳がんでも、ホルモン療法の効果が証明されています。
◼ 分子標的薬
乳がんの20〜30%は細胞表面にHER2(はーつー)タンパクと呼ばれるたんぱく質を持っています。このたんぱく質が、乳がんの増殖に関与していると考え、このHER2タンパクを標的とした薬が分子標的薬の「ハーセプチン」です。
標的となった分子のみに作用するため、通常の化学療法よりも正常細胞への影響が少なく副作用が少ないとされています。
乳房パジェット病の治療
基本的には乳房切除術が行われますが、がんの広がりの程度により乳頭部と乳輪部、合わせて一部の正常組織部を切除する乳房温存療法が可能な場合もあります。その際は、放射線療法と組み合わせて行われます。
◼ 外科療法
乳房を温存して部分切除する乳房温存手術が行われます。
◼ 放射線療法
放射線でがん細胞を死滅させる方法です。
◼ センチネルリンパ節生検
リンパ節への転移の有無を確認するため「センチネルリンパ節生検」を行います。
多くの場合、美容的な観点から乳房温存療法を希望される方がいますが、がんの位置や進行の程度により乳房全体を切除しなければならないケースもあります。
乳がんの生存率
- ステージ0期 : 非浸潤がんの生存率は約95%
- ステージ1期 : 浸潤がんの5年生存率は、約90%
- ステージ2a〜2b期 : 浸潤がんの5年生存率は、約80%
- ステージ3a期 : 浸潤がんの5年生存率は、約65%
- ステージ3b期 : 浸潤がんの5年生存率は、約30%
- ステージ3c期 : 浸潤がんの5年生存率は、約25%
- ステージ4期 : 5年生存率は、約10%
乳がんの転移・再発・末期
最初の術後2~3年で再発という形で発見されることが多いですが、5~10年以上経ってから見つかることもあります。悪性度にもよりますが、遠隔転移を伴っていない局所再発であれば、根治を目指すことが可能になります。
遠隔転移が見つかった場合は末期と同様の治療となり、がんの進行を抑えたり、症状を和らげるなどしてQOLを保ちつつ、がんと共存するための薬物療法が中心となります。