乳がんや胃がんを引き起こす「アポベック」とは

乳がんや胃がんを含めたがんを発生させる背景として、「APOBEC(アポベック)」と呼ばれる酵素が注目されている。いつもは守護神のような良い役割があるのに、何らかのきっかけで悪魔のようながん発生を促す問題因子に変化してしまう。英国フランシス・クリック研究所の研究グループが報告している。

いつもはウイルスから守る役割も

人間は、遺伝情報を保つDNAの情報に基づいて、タンパク質を作っている。DNAはいったんRNAというDNAの仲間にコピーされて、いわばタンパク質の作り方を教える役割を果たしている。このRNAはメッセンジャーRNAと呼ばれている。研究グループによると、1993年、メッセンジャーRNAの内容を編集する酵素が発見された。この酵素が、アポベックと名付けられた。この酵素はウイルスへの感染にも反応する。ウイルスから細胞を守る役割も果たしている。一方、逆に、DNAにダメージを与えている可能性も指摘されており、がんと深く関連があるという負の面も分かってきていた。研究グループはアポベックとがんとの関連を解析した。



DNAからの「指示」を変更

アポベックは細胞の中に存在しDNAからタンパク質を作るときに、そのいわば「指示」を変更してしまい、そこに問題があった。通常DNAは二重らせん構造でしっかり結ばれており、これだけでは変更が起きない。時々DNAが1本に分離されてしまい、この時にアポベックの影響が出ていた。がん細胞はDNAに異常な変更が起きていると知られている。DNAはコピーを繰り返して細胞を増やしており、ここでミスが起きたときに、DNAがほどけることがある。結果として、アポベックの攻撃を受けやすくなる。アポベックの攻撃で起きる「エラー」が蓄積されるときに、細胞増殖や細胞死のコントロールに関係していると、細胞の異常が問題になりやすい。

異常を加速

研究グループによると、アポベックと関わると見られる異常は次の通りだ。・30年以上前からたばこや紫外線がDNAにダメージを与えることは分かっていたが、近年になって、アポベックが関連しているとわかってきた。・乳がんで起きる遺伝子異常と、アポベックが引き起こす遺伝子異常が一致していた。・アポベックがDNAの異常を起こし始めると、がんの遺伝子変異が爆発的に増えてくる。・胃がんや脳腫瘍では、ウイルス感染によってアポベックの活動性が高まり、がんの発症につながる。アポベックが人体に有効なものから有害なものに変わる過程について調べるのが重要になる。がん細胞の増殖の理解に迫る重要な視点で、今後のがん治療を後押しする可能性もありそうだ。

文献情報

When defences attack: the hidden cause of cancer hiding in our cells

When defences attack: the hidden cause of cancer hiding in our cells – Cancer Research UK – Science blog

 

We look at APOBECs – biological double-agents that start out as a friend to our cells but morph into a deadly enemy as cancers develop.