膵臓がんに多い「膵管腺がん」がん化のメカニズムを解明

膵臓の細胞の中の、何がどのような作用をして、膵臓がんができるのか、また、がんの転移、浸潤起こるのかについて、このたびまた1つ新しい仕組みが発見された。

「KRAS」だけではすぐにがんにならない

米国ミシガン大学を中心とした研究グループが、分子細胞生物学の専門誌ジーンズ・アンド・ディベロップメント誌で2015年1月15日に報告したものだ。膵臓がんの大半は「膵管腺がん(PDA) 」という種類のものだ。膵管腺がんでは「KRAS」という、細胞増殖のアクセルとして働く遺伝子異常(突然変異)になっているため、がん細胞が増殖し続ける。それならば、生まれつきKRASに突然変異あるネズミは、生まれてすぐに膵臓がんになるのだろうか?答えはノーだ。既に存在するこのネズミは、少し育つと膵炎を起こし、その後、がんになるのだ。

「KRAS」+「ATDC」

今回研究グループは、KRAS遺伝子に突然変異を持つネズミに、さらに「ATDC」という遺伝子を導入してみた。すると、膵臓の「上皮」とよばれる部分にがんが早くからでき始め、他の場所への「転移」や、じわじわと広がっていく「浸潤」が促進された。ATDC遺伝子は、「毛細血管拡張性運動失調症」という病気に関連している、DNAに傷がついたときの修復遺伝子だ。



「上皮間葉転換」を解明

さらに実験を進め、その仕組みを詳しく調べた。すると、まるでドミノ倒しのようにがんの増殖を促す流れが見つかった。 膵臓の「上皮」にできたがん細胞で、ATDCは細胞の「βカテニン」というタンパク質に働きかけていた。さらにその後、「Zeb1」および「Snail1」というタンパク質に信号が送られ、がん細胞の表面に「CD44」というタンパク質が増えた。CD44が増えると、がん細胞は「上皮間葉転換」(EMT)を起こすというのが一つのゴールになっていた。上皮間葉転換は、通常動かない「上皮系」のがん細胞が、「間葉系細胞」という動き回れる細胞のように変化すること(「上皮間葉転換」により薬が効かなくなったがん、2種の薬の併用が効果ありを参照)。転移や浸潤を起こしやすくなる。今回発見された、膵管腺がんでの、ATDCによる上皮間葉転換の新しい誘導メカニズムは、がんの治療法の開発に、また1つ新しい可能性をもたらしたと言えるだろう。

関連情報

Wang L et al.ATDC induces an invasive switch in KRAS-induced pancreatic tumorigenesis.Genes Dev. 2015;29:171-83.

ATDC induces an invasive switch in KRAS-induced pancreatic tumorigenesis. – PubMed – NCBI