ナノ粒子が病気の治療で台頭

病気の治療に「ナノ粒子」を使おうという動きが広がっている。1mmの100万分の1という極小レベルの粒子を使って、薬の効果を高めたり、副作用を避けられるようにしたりするもの。がん、動脈硬化、角膜移植などの分野で力を発揮しそうだ。

遺伝子に影響するナノ粒子

一つはがん。薬剤耐性に打ち勝つ、新しいがんの治療法が開発されている。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)を含む研究グループが、米国科学アカデミー紀要で2015年3月2日に報告したものだ。

がん治療として用いる化学療法は、初めのうちは腫瘍を小さくするものの、薬剤に対する耐性ががんの方に出てくることがある。

そうなるとがんは再び勢いを盛り返す。

この問題の解決のため、新しいナノサイズの器具がMITで開発された。最初に薬剤耐性につながる遺伝子をブロックする機能がある。こうして処理したがんに対して、化学療法で攻撃していくという手順を取る治療を想定している。

このナノ粒子は、薬剤耐性につながる遺伝子「MRP-1」を作れなくする効果を持つ。その上で抗がん剤の「5フルオロウラシル」を放出して、がんを攻撃するという仕組みだ。

乳がんのがん細胞を殺す

研究グループは、この方法をマウスで実験。がんの治療で標的となる3つのタンパク質のいずれも持っていない治療の効きにくい乳がんの細胞をネズミに埋め込んで治療を行った。

3つのタンパク質とは、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)、HER2というタンパク質だ。

3つが陰性という意味で、「トリプルネガティブ」と呼ばれることもある。ナノ粒子を使った治療により2週間で90%のがんが小さくなった。

物質科学・ナノテクノロジー・生物学などの専門的知識を総合的に組み合わせた研究の成果となる。化学療法の効果をさらに高める可能性がある。




抗がん剤をがん細胞だけに

さらに「メソポーラスシリカ」と呼ばれるナノ粒子も注目されている。

病気の場所で薬を放出するというものだ。ドイツのミュンヘン大学を中心とする研究グループが、米国化学会の発行するナノ粒子の専門誌、ACSナノ誌オンライン版で2015年3月2日に報告している。

今回、研究グループが用いたナノ粒子はメソポーラスシリカと呼ばれるものだ。メソポーラスとは穴が空いていることを表している。均一で規則的な細かい孔(メソ孔)を持っている。

このナノ粒子を用いると、がんを狙って薬剤を送り込めるようになる。無用なところに薬が行かないので、厄介な副作用を軽くする効果が期待できる。今回研究グループは、がんの場所で薬を放出するような仕組みを考案した。

「マトリクス・メタロプロテイナーゼ9(MMP9)」というがんが異常に多く作るタンパク質を分解する酵素に着目した。ナノ粒子に薬をつないでおき、そのつないでいる部分がMMP9によって分解されるようにする。

がんではMMP9が多く存在しているので、がんに近づくと薬をつないでいる部分が切れて、薬が放出されるという仕組みだ。

肺がん組織を殺す

研究グループは、人とネズミの肺がんの細胞を使って事件。MMP9を介してナノ粒子内に仕込んでおいた抗がん剤「シスプラチン」の放出を確認。がんのないところでは抗がん剤の有毒性は出ないと分かった。

抗がん剤の効きにくいがんに効果を発揮した。ナノ粒子は、相乗作用を持つ2種類の薬剤を組み合わせてつなげるといった応用も効くようだ。

実用化されれば用途は広がりそうだ。肺がんへの抗がん剤を送る仕組みは米国からも報告されている(肺がんに効く新しいタイプの薬を合成、がんに寄り集まり自殺に追いやる)。

炎症を抑えて動脈硬化を改善

さらに動脈硬化の治療でもナノ粒子が生かされようとしている。動脈の内側にできる粥状の脂肪性沈着物であるプラークを標的として届いて、プラークを安定的にして、病気を起こしにくくするという治療だ。

米国コロンビア大学を含む研究グループが、米国科学振興協会が発行するトランスレーショナル医療分野の専門誌サイエンス・トランスレーショナル・メディシン2015年2月号で報告している。

アテローム性の動脈硬化症は、プラークによって動脈が硬くなる病気と言える。心臓や脳の血管が詰まれば命を落としかねない。治療の手段が増えたとはいえ危険であることに変わりはない。

この動脈硬化では炎症が問題になる。人はもともと炎症を沈める物質を持っている。

その一つが「アネキシンA1」というタンパク質。研究グループはこのアネキシンA1をまねた物質を作って、自然に分解するナノ粒子と組み合わせてプラークのあるところまでとどける治療を考案した。




5週間で血管を治す

治療5週間で損傷した動脈は大幅に修復されると分かった。プラークについては、一般的にプラークがやわらかくなるとちぎれて、別の場所の血管に詰まって危ないとされるが、炎症を治めることで安定的になると分かった。

活性酸素を減らしたり、保護の働きをするコラーゲンを増やしたり、プラークの中の死んだ組織を減らしたりする変化が確認できた。

ナノ粒子の治療を行わない場合は、そのような改善は見られなかった。使用したナノ粒子は100nm(ナノメートル、ナノは10億分の1)以下で、人間の髪の毛1本の先端の1000分の1以下となる。

研究グループによると、ネズミは心臓発作を起こさないため、人間での証明を待つ必要はあるものの、炎症を抑える効果を確認できたのは大きいという。

角膜移植後の目薬をより良く

角膜移植の後の目薬の改善という道もあるようだ。通常は1時間ごとに複数回、使う必要があるが、ナノ粒子を使うとこうした必要がなくなるという。米国ジョンズ・ホプキンス大学医学部ウィルマー眼研究所を含む研究グループが、医薬品の放出制御に関する学会(CRS)の機関誌ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース誌2015年3月号で報告したものだ。

米国では毎年およそ4万8000件の角膜移植が行われているが、10%で拒絶反応が発生している。主に薬が正しく使われていないからだ。研究グループは、角膜移植したネズミを対象として、炎症を抑えるステロイド薬を徐々に放出するナノ粒子の効果を検証した。

本当の薬を放出するナノ粒子、ニセ薬(プラセボ)を放出するナノ粒子、塩水、ステロイドを毎週1回9週間使って効果を検証した。結果として本当の薬を放出するナノ粒子が薬の濃度を高く保てると分かった。

他のグループは2〜4週間後に角膜に重い腫れが起きたり、充血したりした。角膜移植に限らず、緑内障や加齢黄斑変性などの病気の症状を抑えるためにも応用可能という。ナノ粒子の応用範囲は広がりそうだ。

文献情報

New nanodevice defeats drug resistanceTiny particles embedded in gel can turn off drug-resistance genes, then release cancer drugs.

New nanodevice defeats drug resistance | MIT News

MIT researchers have found that tiny particles embedded in gel can turn off drug-resistance genes, then release cancer drugs.

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Tiny Nanoparticles Could Make Big Impact for Patients in Need of Cornea Transplant – 03/09/2015

There are about 48,000 corneal transplants done each year in the U.S., compared to approximately 16,000 kidney transplants, according to the National Kidney Foundation, and 2,100 heart transplants, according to the U.S. Department of Health and Human Services’ Organ Transplantation Network. Out of the 48,000 corneal transplants done, 10 percent of them end up in rejection, largely due to poor medication compliance. This costs the health care system and puts undue strain on clinicians, patients and their families.

Pan Q et al. Corticosteroid-loaded biodegradable nanoparticles for prevention of corneal allograft rejection in rats. J Control Release. 2015 Mar;201:32-40.

Corticosteroid-loaded biodegradable nanoparticles for prevention of corneal allograft rejection in rats. – PubMed – NCBI

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