化学療法が効きにくい「皮膚T細胞リンパ腫」

「皮膚T細胞リンパ腫」の大規模な遺伝子解析が実施された。化学療法が効きづらいことで有名なこのがんは、他のがんとは異なり、染色体の一部が抜け落ちるタイプの突然変異である「遺伝子欠失」が、発がんにつながっている場合がほとんどだと分かった。





なぜか化学療法が効きづらいがん

米国エール大学医学部の研究グループが、遺伝子分野の有力科学誌ネイチャー・ジェネティックス誌オンライン版で2015年7月20日に報告した。

「皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)」というがんをご存知だろうか。これは、普段外敵から体を守っている免疫細胞の1種「T細胞」が皮膚で活性化しながら増殖する、悪性のリンパ腫だ。

かゆみを伴う発疹から腫瘍まで、皮膚にさまざまな病変を生じる。悪性リンパ腫は、組織の形態などから「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」の2つに大別される。

皮膚T細胞リンパ腫は、非ホジキンリンパ腫の方に分類される。皮膚T細胞リンパ腫は、化学療法が効きづらい。

このがんの悪性度の高さの手がかりを得るため、このたび大規模な遺伝子解析が行われた。

3通りの遺伝子解析で調べた

行った遺伝子解析は3種類。

まず、細胞のもつDNA配列全体を解読する「全ゲノムシーケンシング」。ゲノムの一部が遺伝子と呼ばれる部分になっている。

次に、ゲノムの中でタンパク質の設計図になっている部分だけを解読する「エキソームシーケンシング」。遺伝子の一部がタンパク質の設計図部分となっている。

最後に、DNAからタンパク質が作られる中間段階で生じる「RNA」の配列を解読する「RNAシーケンシング」だ。RNAはDNAに良く似た構造を持つ「核酸」の仲間だ。

皮膚T細胞リンパ腫と、正常のT細胞で、3つの解析を行い、結果を比較した。

発がんにつながる17遺伝子に異常を発見

解析の結果、皮膚T細胞リンパ腫の発がんに関連があると見られる17の遺伝子の異常が見つかった。

これら17の遺伝子は、T細胞の活性化、細胞死、「NFκB(エヌエフカッパビー)シグナル」と呼ばれる一連の増殖シグナル、「クロマチンリモデリング」と呼ばれる遺伝子の働きの調節機構、DNAにできた傷を修復する機構などに関わる遺伝子だった。

特有の異常「遺伝子欠失が10倍」

ここで、皮膚T細胞リンパ腫特有の遺伝子異常が発見された。

長いDNAは、特殊なタンパク質に巻きつけてまとめられ、「染色体」という形で細胞の核の中に納まっている。皮膚T細胞リンパ腫で起きていた遺伝子の異常のほとんどは、染色体の一部が欠けて起きた「遺伝子欠失」だった。

ほとんどのがんは、DNAの配列が1つだけ変化する「点突然変異」が原因で、その遺伝子を設計図として作られたタンパク質が異常な形に変わってしまい発生する。

それに対し、皮膚T細胞リンパ腫では、点突然変異の10倍も遺伝子欠失の方が多く起こっていた。これは、皮膚T細胞リンパ腫特有の遺伝子異常と見なせた。

遺伝子再編成が関連か?

どうしてこれほど、皮膚T細胞リンパ腫で遺伝子欠失が多いのか、今のところまだ分かっていない。

T細胞が、外敵を攻撃できる成熟したT細胞となっていく過程で「遺伝子の再編成」が行われる。

これは、T細胞が、ありとあらゆる外敵に備えるために、外敵センサーとなる「T細胞受容体」の遺伝子の一部で、わざと突然変異やつなぎ替えをランダムに起こす現象だ。

研究グループは、遺伝子の再編成が、がん化に一枚かんでいるのではないかと予想している。真相はこれから解明されることになるが、今回の発見が、皮膚T細胞リンパ腫の治療法開発の手がかりとなっていくのは間違いない。

文献情報

Deadly and distinctive: Cancer caused by gene deletions

YaleNews | Deadly and distinctive: Cancer caused by gene deletions

A deadly form of T cell lymphoma is caused by an unusually large number gene deletions, making it distinct among cancers, a new Yale School of Medicine study shows.

Choi J et al. Genomic landscape of cutaneous T cell lymphoma.Nat Genet. 2015 Jul 20. [Epub ahead of print]

Genomic landscape of cutaneous T cell lymphoma. – PubMed – NCBI

Nat Genet. 2015 Sep;47(9):1011-9. doi: 10.1038/ng.3356. Epub 2015 Jul 20. Research Support, N.I.H., Extramural; Research Support, Non-U.S. Gov’t