がんは単独では意外と弱い

がん細胞と言うと、どんな条件でも増え続けるように思うが、試験管内でがん細胞を増殖させることはそう簡単ではない。

がんにも「支え」が要る

実際にはがんも周りの組織に支えられて増殖する。一番分かりやすい例が「血管新生」だ。がんが大きくなるには血管が必要となる。多くのがんは血管新生を促すような物質を分泌している。血管ができてはじめてがんが増殖できる。この血管新生を促す物質の機能を抑制する「抗体薬」が既に実用化されている。例えば、ベバシズマブ(商品名アバスチン)という薬が当てはまる。

今回紹介する米国マサチューセッツ工科大学(MIT)からの論文は、がんが自らの周りの組織を自分の都合のいいように変えていく仕組みを明らかにしている。有力生物学誌セル誌7月31日号に掲載されていたもので、タイトルは、「HSF1による腫瘍周囲の間質のリプログラムが悪性化に関わる(The reprogramming of tumor stroma by HSF1 is a potent enabler of malignancy)」だ。

生存はるかに悪く

研究グループは元々、「HSF1」に興味を持っていた。HSF1は「熱ショックタンパク質」と呼ばれるタンパク質の一種で、細胞が高温などのストレスにさらされたときに現われてくる。HSF1の現われたがんは悪性度が高いとこれまで知られていた。今回は、がん細胞そのものではなく、周りの「間質組織」のHSF1の状態を調べている。間質とは文字通り、細胞と細胞の間を満たす組織である。研究グループは、正常の間質と比べるとがんの間質細胞でHSF1の量が多いと発見している。実験によると、間質のHSF1の量が多くなると、がんが増殖しやすくなると見られた。さらに人でどうかを調べている。「乳がん」や「非小細胞性腺がん」の組織を分析し、間質の中のHSF1の量が多いがん、少ないがんを比較。高い場合に生存期間がはるかに短くなっていた。

治療成績を高められる可能性も

間質細胞でHSF1が出てくると、がんの周囲の状態が変化し、がんの増殖を助ける可能性を示している。研究では、この問題に関係して、「TGFβ分子」や「SDF1分子」と言われる物質ががんの悪性度をより高める可能性を指摘する。がんが発生すると、がんの都合のいいように周囲の間質の性質が変化しているのかもしれない。もしそうだとすれば、血管新生と同じようにこの間質の性質の変化を防ぐとがんの増殖をとどめられる。ただ残念ながら、今回の研究ではなぜがんに反応して間質細胞のHSF1が出てくるか、なぜTGFβやSDF1ががんの悪性度を高めるのに関係するかなど、治療につながる肝心の手がかりは不明なままだ。この点が明らかになれば、がんの新しい治療法が生まれる可能性は大きい。

文献情報

Scherz-Shouval R et al.The reprogramming of tumor stroma by HSF1 is a potent enabler of malignancy.Cell. 2014;158:564-78.

Cell. 2014 Jul 31;158(3):564-78. doi: 10.1016/j.cell.2014.05.045. Research Support, N.I.H., Extramural; Research Support, Non-U.S. Gov’t