悪性脳腫瘍に薬が効かないのは「糖」や「酢」が原因?

体に必要な栄養素である「糖」や「酢」が、がんの悪性度を高めている可能性があるようだ。悪性脳腫瘍「神経膠芽腫(しんけいこうがしゅ)」で見つかったもので、がん細胞が分子標的薬により殺されない仕組みにも関係していると報告されている。これまでの治療がむしろ悪影響を及ぼしている部分も見えており、注意が必要になるようだ。

悪性脳腫瘍では糖代謝が異常

米国カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部を含む研究グループが、有力科学誌である米国科学アカデミー紀要で2015年7月28日に報告したもの。研究グループに名を連ねるのは、筆頭者を含めて5人が日本人となっている。脳腫瘍の1種「神経膠芽腫(しんけいこうがしゅ)」は悪性度が高い。ほとんどの人は、診断後2年以上生きられない。研究グループによると、神経膠芽腫の細胞は、代謝の異常を特徴としている。体にとって主要なエネルギー源となる「ブドウ糖」を急速に消費するのだ。この異常は、陽電子放射断層撮影(PET)検査でがんを検出する方法に応用されており、診断に使われている。

代謝アップのスイッチがオン

最近、この異常な代謝の詳しいメカニズムが徐々に分かってきた。異常な代謝は、細胞内の「mTOR複合体2(mTORC2)」というタンパク質の活性化によって生じていた。mTORC2は、がん細胞の代謝をアップさせるスイッチを入れていた。スイッチが入ったがん細胞は、ブドウ糖や酢酸を細胞内にたくさん流入させる。ブドウ糖や酢酸は、がん細胞が増殖するための燃料に当たる。燃料が次々補給される状態になり、がん細胞は急速に増殖する。ここまでの仕組みは従来分かっていた。

ブドウ糖や酢酸が手伝っていた

今回研究グループは、ブドウ糖や酢酸が単なる燃料ではなく、特別な機能を持っていると突き止めている。mTORC2がスイッチを入れた後で流入し、さらに、がん細胞の代謝アップのスイッチを入れる手伝いもするという。研究グループはシャーレで培養した神経膠芽腫の細胞を使って実験。ブドウ糖や酢酸をがん細胞に加えて調べたところ、少なくともどちらか一方は、mTORC2がスイッチを入れるために必要であると確認した。

ブドウ糖や酢酸があると薬が効かない!

さらに、ブドウ糖や酢酸は、薬の効果を低下させる問題も起こした。mTORC2がスイッチを入れるのに重要なメンバーに「上皮成長因子受容体(EGFR)」というタンパク質がある。がん細胞の増殖のアクセルを入れるタンパク質として知られている。神経膠芽腫の細胞には、アクセルがかかりっぱなしになる突然変異体「EGFRvIII」が存在し、がんの増殖を促進している。研究グループは、EGFRvIIIの存在が確認されている神経膠芽腫の細胞に、EGFRの働きを邪魔してがん細胞の増殖をストップさせる分子標的薬「EGFR阻害薬」を加えて調べた。すると、培養液の中にブドウ糖や酢酸を入れなかった場合には、EGFR阻害薬はEGFRvIIIを邪魔し、抗がん効果を発揮した。mTORC2が代謝アップのスイッチを入れられなくなり、がん細胞の増殖はストップした。ところが、培養液の中にブドウ糖や酢酸を加えると、EGFR阻害薬がEGFRvIIIを邪魔しているにもかかわらず、mTORC2は代謝アップのスイッチを入れ、がん細胞は増殖を続けた。

がんを増殖させる黒幕

さらに、がんを増殖させる黒幕となる存在に行き着いている。詳しく調べてみたところ、EGFRvIIIを邪魔してもmTORC2がスイッチを入れられるように手伝っていたのは「アセチルCoA」と呼ばれるタンパク質。アセチルCoAは細胞内のミトコンドリアという場所で作られる。アセチルCoAの原料がブドウ糖と酢酸。作られたアセチルCoAはEGFRとは無関係にmTORC2のスイッチをオンにできる。おかげで神経膠芽腫の細胞は、分子標的薬であるEGFR阻害薬が効かない耐性となり、増殖を続ける。さかのぼってブドウ糖と酢酸が助ける形になってる。

治療が逆効果に?

神経膠芽腫の治療では、脳の腫れを抑えるためにステロイド薬を使用する。ステロイド薬は血中のブドウ糖濃度を上げる。今回の結果から、脳の腫れを抑えるために使用しているステロイド薬が、mTORC2を活性化させて、がんの増殖を促進している危険性があると新たに判明した。ブドウ糖や酢酸といった栄養素も、がんの進行や治療に重要だった。がんの複雑さを改めて思い知らされる。

文献情報

Nutrients Turn on Key Tumor Signaling Molecule, Fueling Resistance to Cancer Therapy

Masui K. et al. Glucose-dependent acetylation of Rictor promotes targeted cancer therapy resistance. Proc Natl Acad Sci USA. 2015; 112: 9406-11.

Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Jul 28;112(30):9406-11. doi: 10.1073/pnas.1511759112. Epub 2015 Jul 13. Research Support, N.I.H., Extramural; Research Support, Non-U.S. Gov’t