抗がん剤「BET阻害薬」副作用を予測する

「エピジェネティック」という仕組みを邪魔する抗がん剤に期待が高まっている。その薬はBET阻害薬と呼ばれる薬だ。多くの会社で薬剤が開発され、白血病をはじめとしてさまざまながんに対する薬剤として治験段階にある。今回紹介する研究は、その副作用を予想するポイントを示してくれるという意味で重要な研究だと思う。

BET阻害薬の働きを検証

BET阻害薬は、直接および間接にDNAの働きを調節する新しい薬になる。米国ロックフェラー大学のエピジェネティック研究の大御所デイビッド・アリス(David Allis)の研究室からの論文で神経学の国際誌ネイチャー・ニューロサイエンス誌に掲載された。タイトルは「BETタンパクの一つBrd4は神経細胞の転写を活性化し、その阻害薬はマウスの記憶を抑制する(BET protein Brd4 activates transcription in neurons and BET inhibitor Jq1 blocks memory in mice)」だ。大御所の研究室からの論文にふさわしい、極めて包括的な研究だ。BET阻害薬は、「BRD3」や「BRD4」と呼ばれるタンパク質の「ブロモドメイン」と呼ばれる場所でつながる。今回の研究では、標的となるBRD4の神経細胞での機能を多くの技術を動員して解析している。データは膨大で詳細を全て省いて結論だけを紹介する。

神経活動を左右する「Brd4」

まずこれまで神経細胞でBrd4の機能は全く知られていなかった。今回の研究によって、Brd4は神経刺激との関係があると分かった。「Jq1」という阻害薬を使ってBrd4の機能を抑えると、いくつかの遺伝子の働きを抑えると分かった。記憶をするためのプロセスを邪魔しているとも突き止めた。Jq1の神経活動を抑えるところに注目し、神経活動の過剰になるてんかん発作への影響も検証している。動物実験で発作を著名に抑えると示している。ここからBET阻害薬を使うと、副作用として記憶障害を起こす可能性が高いと警告している。できれば血液から脳への入り口となる「脳血管関門」を通らないような薬の開発を目指すべきと具体的なアドバイスをしている。眠くならないアレルギーの薬も開発されており、重要な示唆と言える。

副作用を逆手に使う

一方、脳内に移行できるようにしたBET阻害薬ができれば、てんかん発作を抑えるのに利用できる可能性もあると見ている。従来の抗てんかん薬と比べると新しいメカニズムの薬としてBET阻害薬は違う効果を持ち得る。臨床研究を行ってもいいのではと提案している。さすが大御所と思わせる論文のまとめ方だ。いずれにせよ、現在進行中の治験から多くのデータが上がってくるはずだ。治験に携わる人も、大御所の警告を頭に置いて薬を使う人々を注意深く調べてほしい。

文献情報

Nat Neurosci. 2015 Oct;18(10):1464-73. doi: 10.1038/nn.4095. Epub 2015 Aug 24. Research Support, N.I.H., Extramural; Research Support, Non-U.S. Gov’t