副作用の小さい抗がん剤も!

これまでの薬の概念を超えた、全く新しい仕組みで効果を発揮する薬が開発されそうだ。副作用の小さい抗がん剤や、これまで治せなかった病気の薬が次々開発されてくる可能性が大いにある。従来と全く異なるその薬剤技術の名前は「プロタック」と呼ぶ。

従来の薬と効き方に違い

米国エール大学を含む研究グループが、有力科学誌ネイチャーの化学/生物学分野の姉妹誌ネイチャー・ケミカル・バイオロジー誌で2015年6月10日に報告したもの。現在の医薬品の多くは、病気の原因となるタンパク質に結合して、働きを妨害するように設計されている。こういった薬は一般に、十分な効果を得るために高用量を必要とする場合が多い。高用量は、副作用につながる恐れがある。研究グループはこのたび、「プロタック(PROTAC)」という新しいタイプの薬を開発した。プロタックは、「Proteolysis Targeting Chimera」の頭文字を取った名前。日本語では「タンパク質分解誘導キメラタンパク質」という意味となる。

病原タンパク質に「分解せよ」の目印付ける

プロタックが従来の薬と異なるのは、薬自体が病原のタンパク質の働きを妨害するのではないところだ。病原タンパク質が分解されるように「目印」を付けて分解を促すというユニークな効き方をする。プロタックは、狙った病気の原因タンパク質に向かうための部分と、「ユビキチンE3リガーゼ」という酵素を搭載した部分を持つ。プロタックがユビキチンE3リガーゼを連れて、狙った病気の原因タンパク質のところまでやってくる。するとユビキチンE3リガーゼは、病気の原因タンパク質に「ユビキチン」というタンパク質を次々くっつけていく。ユビキチンをたくさんくっつけると、細胞にとって「分解してください」というサインを示すことになる。このサインを見つけて体にもとから備わっている「プロテアソーム」という分解屋(タンパク質分解酵素の塊)が、目印の付いたタンパク質を破壊していくという仕組みになっている。

低用量で済む

プロタックの優れた点は、低用量で済むところだ。狙った1つのタンパク質にくっついて効果を発揮して終わりではない。近くのタンパク質に次々と移動し、何回もユビキチンを付けていく。低用量であっても効果に広がりが出てくる。さらに、細胞がもとから持つ、タンパク質を分解する仕組みを利用するので、従来の薬では標的にしづらかったタンパク質の中にも、安全かつ確実に破壊できる場合もある。今後、薬の開発方法が一変するかもしれないと研究グループは述べている。

動物実験でがんに効果

研究グループは、ネズミに移植したがんをプロタックで治療できるか実験。2種類の、がんの原因タンパク質を標的としたプロタックを作り、それぞれ治療効果を検証した。プロタックは2種類のいずれについてもがんの組織全体に広がり、9割以上の標的タンパク質を破壊した。

500億円で提携

このプロタックの仕組みを利用した薬は、人の病気での実用化に向けてもう動き始めている。研究グループの関わるベンチャー企業、アルビナス(Arvinas)社は、製薬会社のメルク社と4億3400万ドル、日本円にしておよそ500億円で提携した。研究グループが関わるもう一つの企業であるプロテオリクス社は、多発性骨髄腫(ミエローマ)の薬「カイプロリス(Kyprolis)」を開発している。

RNAiやクリスパーに並ぶ技術に

この技術は、製薬のみならず、医学や生物学の研究にも応用が可能となる。現在、細胞から特定のタンパク質を除去する技術として「アールエヌエーアイ(RNAi)」や「クリスパー(CRISPR)」がある。これに新しくプロタックが加わることになりそうだ。この10年で最高の研究成果だと、研究リーダーのクレイグ・M・クルーズ氏は述べている。

文献情報

New type of drug can target all disease-causing proteins

Current drugs block the actions of only about a quarter of known disease-causing proteins, but Yale University researchers have developed a technology capable of not just inhibiting, but destroying ev

Bondeson, DP et al. Catalytic in vivo protein knockdown by small-molecule PROTACs. Nat Chem Biol. 2015 Jun 10. [Published ahead of print]

Nat Chem Biol. 2015 Aug;11(8):611-7. doi: 10.1038/nchembio.1858. Epub 2015 Jun 10. Research Support, N.I.H., Extramural