膵臓がんの始まり?「S1P2」の減少が異常を招く

「細胞数が増え過ぎて、組織から細胞が押し出される」この仕組みの破綻が膵臓がんの始まりという新説が出ている。米国ユタ大学を含む研究グループが、生体医学/生命科学分野のオープンアクセス誌、イーライフ(eLife)のオンライン版で2015年1月26日に報告した。

細胞死を誘発することで回避できる

ほとんどの「固形がん」は、内臓を含めた体の中にある「空洞」や表面を覆う細胞の層である「上皮組織」に発生する。こうした組織の中では細胞が平たく言えばぎゅうぎゅう詰めになっている。窮屈になると細胞を組織の外に押し出す仕組みがある。研究グループは、これまでに発表された遺伝子解析データを分析した。膵管腺がんという最も一般的な膵臓がんのほか、肺がん、一部の大腸がんを検証。こうしたがんでは、細胞が組織から押し出される仕組みに不可欠な生理活性物質「S1P2」の受容体が大幅に減少していることを突き止めた。いずれも抗がん剤が効かないタイプの悪性度の高いがんについて調べている。さらに、膵管腺がんに的を絞って調べると、S1P2の減少が起きていた。結果として、細胞の押し出しが滞り、細胞死の割合が低下していた。およそ50%の細胞が押し出されずに塊を形成しているという状態だ。残りの大部分は細胞層の外側ではなく下側に押し込まれていた。

がんが誕生

通常、細胞が増え過ぎると、S1P2を介した信号により細胞が押し出されて死に至る。この信号が邪魔されると、細胞が蓄積して塊を形成する。抗がん剤にも反応せずに細胞死が発生しなくなるか、細胞層の下に押し込まれて浸潤(拡散)が起こる可能性がある。押し出されずに死亡する細胞も発生してくる。結果として、上皮組織のバリア機能が損なわれる。慢性的な炎症につながる可能性がある。まさしくがんだ。「細胞の塊」「細胞死の阻害」「浸潤活動」「慢性炎症」。それぞれが転移に進む要素であることは、長い間の諸研究により証明されている。

細胞が死なない

通常、細胞死は「FAK」という細胞の生存を助ける酵素が失われて起こる。FAKを邪魔すると細胞の押し出しの異常が回避できるか試験したところ、「FAK阻害薬」という邪魔する薬を加えるだけで細胞死亡率が正常に戻り、大きな細胞の塊がなくなって、上皮組織のバリア機能も回復した。S1P2減少が見られるがんの治療法につながる可能性がある。

関連情報

Cell mechanism discovered that may cause pancreatic cancer.

Gu Y et al.Defective apical extrusion signaling contributes to aggressive tumor hallmarks.Elife.2015 Jan 26 [Epub ahead of print]

Elife. 2015 Jan 26;4:e04069. doi: 10.7554/eLife.04069. Research Support, N.I.H., Extramural; Research Support, Non-U.S. Gov’t