抗がん剤が効きづらいタイプの卵巣癌と非小細胞肺癌

抗がん剤が効きづらいタイプの卵巣がんと非小細胞肺がんで、2つの薬の組み合わせが効果的であると判明した。

きっかけは卵巣がんの腹水

英国国立がん研究所のウダイ・バネルジ氏率いる研究グループが、2015年4月18日から22日まで米国フィラデルフィアで開催された米国がん学会年会で発表。同学会が2015年4月19日に紹介したものだ。卵巣がんは、進行すると腹水がたまる人が多い。腹水はおなかにたまった体液。他のがんでは腹水が見られると末期である場合が多いが、卵巣がんでは必ずしもそうではなく、腹水が卵巣がん発見のきっかけとなる場合もある。腹水は、抗がん剤をはじめ薬を使う「化学療法」を行う前に吸引して除去する。研究グループは以前、これらの除去した腹水からがん細胞を集めて解析した。その結果、卵巣がんの細胞に「リン酸化S6K(pS6K)」というタンパク質が多く出ている場合、化学療法が効きづらいと発見した。pS6Kは、がん細胞に「増殖しろ」というシグナルが伝わる過程で働くタンパク質の1つだ。

「AZD2014」+「パクリタキセル」

pS6Kは、「mTOR」というタンパク質に「リン酸化」という処理をされると働きが活発になる。このリン酸化によって、がん細胞を増やす信号を出せるようになる。なお、このmTORには、mTOR1とmTOR2の2種類がある。mTOR1とmTOR2の両方を狙い撃ちにする薬が「AZD2014」という薬だ。がんの増殖シグナルを中断させる分子標的薬となる。mTORがブロックして、mTORに活性化されるpS6Kもブロックする。厄介な卵巣がんをうまく押さえ込む可能性がある。

がん細胞が死にやすく

研究グループは今回まず、シャーレで培養したがん細胞に、「AZD2014」と卵巣がんを中心に広く使われる抗がん剤「パクリタキセル」を同時に作用させ、その効果を調べた。がん細胞は、卵巣がん細胞、非小細胞肺がん細胞、乳がん細胞の3種類。それぞれの薬を別個に作用させた場合と、組み合わせて作用させた場合で、がん細胞への効果を比べた。その結果、2つの薬を組み合せた方が、別々よりもがん細胞は死にやすいと発見した。

動物実験でもがんは小さく

さらに、肺がんと卵巣がんの動物モデルを使って、2つの薬を一緒に使って治療効果を調べたところ、がんが小さくなった。がんが小さくなるときに、がん細胞の増殖に関係するpS6Kタンパク質も減っているのを確認した。これらの結果から、pS6Kが多く出ているがんの人で化学療法が効きづらい問題が、「AZD2014+パクリタキセル」の治療で克服できるのではないかと考えた。

人間のがんでも効くか?

そこで、実際のがんの人で「AZD2014+パクリタキセル」の治療を行い、卵巣がん、非小細胞肺がんへの効果を検証した。これは、この薬の組み合わせを実際の治療で使う承認を得るための最初の検証、フェーズ1試験だ。検証の対象者は合計で21人。AZD2014を1日2回、週に2回または3回飲んでもらった。薬の用量は、何通りか用意したうちのどれかを試してもらい、安全に最も効果が得られる用量を調べた。同時に、パクリタキセルの点滴も週1回受けてもらった。パクリタキセルは、全員同じ用量とした。14週間以上治療した後で、治療の効果を評価した。評価には、固形がんの治療効果判定のためのガイドライン「レシスト(RECIST)」を用いた。

がんが縮小

結果、卵巣がんを治療した10人のうち7人で、がんが3分の2以下に縮小した。非小細胞肺がんは、2人中2人とも、がんが3分の2以下に縮小した。2人とも、AZD2014の用量が多い治療グループだった。副作用は、けん怠感、下痢、吐き気が見られたが、どれもひどいレベルではなかった。

検証は次のステップへ

今回のフェーズ1試験の結果から、次の段階の検証であるフェーズ2試験での薬の用量は、体表面積1平方メートル当たりパクリタキセルを週1回80mg、AZD2014を週2回50mgと決定した。

既に英国で、進行性の卵巣がんを対象として、実用化に向けた次の段階の検証であるフェーズ2試験の計画が進んでいる。非小細胞肺がんについては、最適な薬の用量を決定するために、人数を増やして再度検証(フェーズ1b試験)を行うとのことだ。

文献情報

Udai Banerji et al. Adding a Dual mTOR Inhibitor to Chemotherapy May Benefit Some Ovarian and Lung Cancer Patients, American Association for Cancer Research. 2015 Apr 19.