米国で開発中の新型免疫療法「TCR療法」とは?

「多発性骨髄腫」という治療の難しい血液のがんがある。このたび「TCR療法」と呼ばれる新しいタイプの免疫療法が効果を上げた。

新しい免疫療法「TCR療法」

米国ペンシルベニア大学医学大学院を中心とした研究グループが、有力科学誌ネイチャーの医学専門版姉妹誌であるネイチャー・メディシン誌2015年8月号で報告した。

免疫とは、体がもともと持つ、がんや感染症などの異物に抵抗する機能。その免疫の力を利用して、がんを攻撃しようというのが免疫療法だ。TCR療法は、遺伝子操作の技術を利用して、免疫によってがんをうまく攻撃しようという新しい治療となる。がん細胞表面には、がんの目印となるような「がん抗原」というタンパク質が出ている。

遺伝子操作の技術を使うと、がんへの攻撃を担うリンパ球の一つ「T細胞」をこのがん抗原にぴったりくっつく形にすることができる。

このがん抗原にくっつくためにT細胞の表面に飛び出すタンパク質を「TCR」と呼ぶ。「T細胞受容体」を略した言葉だ。操作を受けたT細胞は、TCRでがん抗原をがっちりつかみ、がん細胞を引き寄せて破壊し殺す。これがTCR療法の真骨頂だ。

治療が難しい「多発性骨髄腫」で検証

今回研究グループは、多発性骨髄腫という血液のがんに対してTCR療法を実施し、有効性と安全性を検証した。

この検証は、治療法の実用化に向けて3段階で行われる検証の1番目と2番目である、フェーズ1臨床試験およびフェーズ2臨床試験となった。対象者は、多発性骨髄腫の20人。

このがんは極めて治療が難しく、5年生存率は50%ほど。T細胞の標的として注目したがん抗原は「NY-ESO-1」と「LAGE-1」の2つ。

それぞれ多発性骨髄腫の6割で見られる。T細胞の表面を2つの抗原に対応できるようにする。

治療のためのT細胞は点滴で戻す

研究グループはまず多発性骨髄腫の対象者から採血し、血液の中からT細胞を取り出した。ペンシルベニア大学が独自に開発した方法で遺伝子操作を施す。

この操作によりT細胞は、がん抗原「NY-ESO-1」と「LAGE-1」にピッタリくっつくTCRを持つ。対象者は先に通常の治療で行われるいわゆる「骨髄移植」である自家幹細胞移植手術を受ける。

さらに2日後に、今回のがん抗原に対応可能なTCRを持つT細胞を1人当たり平均24億個、点滴によって体内に戻された。点滴で体に戻されたT細胞は、骨髄に存在するがん細胞を攻撃する役割を負う。

点滴により、インターロイキン6という炎症性の免疫物質の体内レベルが高くなったが、それが原因の副作用は起きなかった。この点滴が原因で死亡した人もいなかった。

がんが消滅した人も

T細胞の点滴後、平均21.1カ月追跡調査で、20人中15人が生存し、10人はがんの進行が止まったと確認されている。研究グループは、治療の効果を3パターンで確認している。

20人のうちで14人では、がん細胞がほぼ検出されなくなるまでの減少を達成した。2人ではがん細胞がゼロまではいかないながらも減少を達成し、病状の改善につなげられた。

1人は病状の進行を抑え込み安定させることに成功した。TCR療法で作り出したT細胞が減ってきたり、がん細胞が突然変異を起こしてTCRとくっつきにくくなったりした場合は、がんの進行が確認された。

平均生存期間は32.1カ月に

さらに2015年4月の時点の治療成績についても研究グループは報告している。

これまでの平均追跡期間は30.1カ月になっている。がんが進行しないでいる平均期間は19.1カ月、平均生存期間は32.1カ月。治療の効きにくいがん「多発性骨髄腫」の免疫療法として、今回のTCR療法は安全で効果的と研究グループはまとめている。

「血液のがんの免疫療法における重要なステップだ」と研究グループ。多発性骨髄腫に対してより幅広く適用できるか。免疫療法への関心も高いだけに、国際的にも注目されそうだ。

文献情報

Investigational T-cell Receptor Therapy Achieves Encouraging Clinical Responses in Multiple Myeloma Patients, Penn-led Study Finds

Results from a clinical trial investigating a new T cell receptor (TCR) therapy that uses a person’s own immune system to recognize and destroy cancer cells demonstrated a clinical response in 80 percent of multiple myeloma patients with advanced disease after undergoing autologous stem cell transplants (ASCT).

Rapoport AP et al. NY-ESO-1-specific TCR-engineered T cells mediate sustained antigen-specific antitumor effects in myeloma.Nat Med. 2015; 21: 914-21.

Nat Med. 2015 Aug;21(8):914-21. doi: 10.1038/nm.3910. Epub 2015 Jul 20. Research Support, N.I.H., Extramural; Research Support, Non-U.S. Gov’t